この住宅は若い夫婦とその子供のための新たな生活の場として計画された。敷地は渋谷区にある都心の狭小地である。
都心の狭小地という昨今では一般的となったコンテクストにおいて、建築基準法や各種条例は、狭小地の住宅を考える上で大きな要件となることは周知の事実である。また、建設コストや住宅ローンの類も計画を大きく左右する事項を孕んでいるため、重要な課題として計画に盛り込む必要がある。その中でも4Mに満たない前面道路からのセットバック・斜線制限・住宅ローンの審査項目にある最低延床面積はこの住宅を決定付ける強い因子となり、前面道路に対して引きを取った合理的かつ経済的な施工性も考慮した三階建てのシンプルな構成(1階水まわり/2階LDK/3階寝室)を計画した。
一見すると普遍的にも見えるこの住宅ではあるが、外部に対しては鉄骨2階建てを増築したかのような鉄骨フレームを併設し、一方、住宅の内部に対してはその中心にゆったりとした巾をもった階段を設えた。外部の鉄骨フレームは、狭小地における前庭=駐車場という一般解を払拭し、今後この住宅と変容する風景の中で多様な可能性と広がりを与えてくれるとともに、周囲の様々なキャラクター(建物群)を縫合したような外観となっている。内部のゆったりとした階段は、本来の上下移動のための単一的空間から、各諸室との多様な関係性を生み出しながら、のびやかな奥行き感と偶発的な居場所をつくり出してくれることを意図した。
様々なコンテクストから導かれたシンプルな構成に付録的に付け足された内外の2つのエレメント(場所)は、時間と共に変容していく家族のライフスタイルや周辺の環境をゆるやかに享受してくれる。それはスペシャルとジェネラルのちょうど中間のようであり、ニュートラルな枠組として、家族と建築にほどよい距離感を生み出していくだろう。